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「キャリア・バー」 第10回

「依頼が上手い人と下手な人2・僕が青葉台に行く理由」

 僕は、昨日マスターから聞いた話を考えていた。

 僕は今、マネジメントを担当していて、社内で事務を担当する部門のメンバー・・・事務方のメンバーに、新しいビジネスモデルの実現策を検討してもらう仕事を行っている。

 でも、事務方のメンバーは、僕がいくら厳しく『仕事をやれ』と言ってトレースしても、仕事を進めようとしないのだ。僕の言うことを彼らは聞き入れないで無視ばかりだ。そんな状態なので、すっかり嫌になってしまっていた。

 僕のやっていることは、マネジメントと言っても、上司である園田の指示で動いているだけである。伝令というほうが近いかも知れない。

 僕がこの仕事をする必要があるのかは今ひとつ分からない。でも、上司から「やれ」と言われているから、それはそれなりにやっている。

 本当に事務方の動きが悪いのだが、それを言うと園田は僕に怒る。これが嫌でしょうがない。悪くないのに、園田は僕を責めるから、やってられないと思っている。

 昨日、そんな不満を本郷のバーで、マスターに言った。そしたら、マスターは「自分が変わらなければならない」と僕に言ったのだ。

 なぜ、「自分を変える」必要があるのか。僕は最初分からなかった・・・でも、話を聞くうちに、考えが少しづつ変わってきた。

『自分を変える』

 それは、自分の行動、意識、考えを変えることで、他人の行動を変えさせるということだとマスターは言う。それは、どういうことか、自分は何を変えればよいのかを昨日からずっと考えている。

 マスターは、ヒントになるのは、7つの習慣だと言う・・僕は、7つの項目と、今の自分の行動と比較してみようと思った。だから、昨日の夜中・・・本郷の店から帰った後にノートに書き出したのだった。

 
(1)普段から依頼先に「貸し」を作る。
→出来ていない。「貸し」など考えたことはない。

(2)依頼内容はわかりやすく明確にする。
→電話か、メールで「やってほしい」と一方的に言うだけだったかも知れない。手順は、事務方が考えるべきだから、僕は「作業をやってくれ」とだけしか言う必要がないと思っていた。

(3)「依頼する理由」は納得感を高く。
→「会社の決定だから」としか言っていない。誰でも会社の決定ならやるべきではないかと思っていた。

(4)できるだけ早くから依頼する。
→これも出来ていない。というか、急に作業が決まるのだからしょうがない。でも、しょうがないと、事務方も思っていたのだろうか。

(5)依頼先にメリットがあるように「お願い」する。
→こんなことしていない。なぜ、自分が「お願い」するのか分からない。

(6)依頼完了時には厚く御礼の言葉を言い、その後もずっと感謝する。
→これも、(5)と一緒。なぜ、僕がお礼をしなくてはいけないのか分からない。

(7)依頼を受けてもらったら、何かできることを返す。
→何をすればよいのか分からない。


***

 結局、朝になっても答えはでないから、そのまま会社に来てしまった。今日は園田との進捗打ち合わせがある日だ。どうせまた詰められる。
でも、昨日のマスターの話を聞いた後、僕のマネジメントでは、詰められて当然なのではないかと思うようになった。

 僕の考えはもしかしたら、とても甘いのではないかと考えた。だから、「依頼する」ことに向き合おうと考えたのだった。今まで、被害者意識が高かったのかも知れない。

 なぜ、自分が関係ないのに、他部門の仕事をトレースしなくてはならないのか。なぜ、嫌われなくてはならないのか。

 あたりまえの話しだけど、僕が「仕事をやってくれ」と事務方に言えば言うほど、彼らは反発する。反発されれば、こちらだってまずます腹を立てざるを得ない。そうなれば、反発の応酬になってしまうのはあたりまえではないのか。

 それを断ち切る必要があるのではないかと、思うようになってきた。

 それを変えるには、僕ではなくて事務方ではないかと最初は思った。でもマスターは「君が変わることで、他人が変わる」と言った。最初は「それは違う」と思った・・・でも、だんだん、「そうかも知れない」と思うようになっている。

 どちらかから断ち切らなければ、永遠に対立構造は続く。それでは、仕事は進まないだろう。

 マネージャーやその補佐をする僕のようなスタッフは、仕事を進めることをミッションとしているのではないのか・・・だったら、行動を変えなくてはいけないのは、僕なのかも知れない。

 そう思うと、今まで上手くいかなかったのは、僕の責任かも知れないと強く思えるようになってきた・・・でも、どうすればよいのか。どのように行動を変えれば、全体に流れがよくなるのかが良く分からない。

 僕はノートをもう一度見た。
 
(1)普段から依頼先に「貸し」を作る。
→出来ていない。「貸し」など考えたことはない。

(5)依頼先にメリットがあるように「お願い」する。
→こんなことしていない。なぜ、自分が「お願い」するのか分からない。

(6)依頼完了時には厚く御礼の言葉を言い、その後もずっと感謝する。
→これも、(5)と一緒。なぜ、僕がお礼をしなくてはいけないのか分からない。

(7)依頼を受けてもらったら、何かできることを返す。
→何をすればよいのか分からない。

「感謝」、「お願い」、「お礼」、「できることを返す」マスターからもらったデンキプランには、そういったことが書いてある。今の僕にはまったくできていないが、こういうことをすることで、何かが変わるのだろう。

 そのためには・・・まず、事務方のメンバーと一緒に何かをやってみる必要があるかも知れない。

 一体化して一緒に何かをすれば、見えてくるものもあるかも知れない。彼らは忙しい、だから、彼らができないことをサポートしてみようか。明日から、向こうの事務所に常駐して彼らと一緒に仕事をできるように園田に頼むようにしよう。

 でも、きっと園田は反対するだろう、なぜ、「お前が事務方の仕事をするのか」、「お前の仕事をやれ」と言うに違いないと思った。

 でも、僕には他にアイデアがない。今の自分は、行動を少しでも変えることでしか、先が開けないように思っている。だから、駄目かも知れないけれど、園田に頼んでみようと思ったのだ。

***

「高田、関係は最悪らしいな、かなり評判が悪くなっているらしいじゃないか」

 園田はにやけながら言う。相変わらず意地の悪い表情をする人だ。

「そうですか」

 僕は無表情に言った。

「どうするんだよ。部長に呼ばれて文句いわれるぞ、確実にな」

  たたみかける園田には応じず、僕は黙っていた。

「おい、お前の考えを聞かせてくれよ」

 僕は黙っているのをやめる決断をし、勇気を出すことにした。

「園田さん、明日から青葉台・・・事務センターに常駐したいのですが。」

 園田にはっきり言った。どうせ反対されると思ったが、何を言っても駄目出しされるだけだ。だったら、思っていることを言ったほうがいい。それで駄目なら、しょうがない。

「・・・何をしにいくのか?」園田が訊いた。

「事務方の検討をサポートしにいきます。一緒に検討しないと、進まないと思うので・・・出来ることは、やってみようと・・・銀座ビルにいても進まないですし、自分がここにいても、事務方には仲間と思われないでしょうから・・・」

 僕は、こんなことを言えば、園田から馬鹿にされたり、嫌味を言われると思っていた。でも、園田は真面目に聞いていた。僕は続けて言った。

「僕の仕事はマネジメントです。だから、仕事が進むと思われることは全て試してみようと思います。

自分で考えた結果です。1週間とは言いません。3日でもよいです。でも、1日や2日では駄目です。彼らと一体になれそうにない。

 3日くらい一緒にいて、彼らの悩みや不安、困っていることを把握したいと思います」

園田は僕の顔を見た。

「そうか・・・なら行けよ、高田」

 園田は本当にあっさりと言った。いつもの嫌な顔でなく、真面目な顔だった。

「2週間やるから行ってこいよ・・・それくらいの期間はいる。課長と部長には俺から話をしておく。青葉台事務センターの手続きはお前の方でやれよ」

 園田の言葉はまったく想定外だった。

「高田、お前、誰かから何か入れ知恵されたろ」

「別に、そういうことは・・・」

 僕は答えた。

「・・・まあ、いい。どっちにしろ、自分で考えたんだから尊重してやるよ・・・いいか、高田、いいことを教えてやる。誰の仕事を真似するのも自由だ。でも、正しいことを言う奴も、間違ったことを言う奴もいることを忘れるなよ。

 正しいことを言う奴のことを聞き入れる人間は成功する可能性が高くなるが、間違ったことを言う奴のことを聞き入れれば失敗する可能性が高くなる。お前の聞き入れたことは、前者だ」

 僕は黙って聞いていた。園田は続けた。

「でも、もっと失敗するのは、誰の言うことも聞かない人間だ。俺の言うことをどうとらえるかは、お前の自由だ。でも、今言ったことは、肝に銘じておいても損はない」

 そう言って、園田は一人で会議室を出て行った。

***

 会議室に残った僕は、園田からそんな話を聞いたことに驚いていた。でも、はじめて園田が真面目に話しを聞いてくれたことは、何かとても嬉しいような気分だった。(次回に続く)


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